工事費と設計・工事監理業務報酬
建築士法第2条で「工事監理とは、その者の責任において、工事を設計図と照合し、それが設計図書とおりに実施されているかいないかを確認することをいう。」としています。そして、国土交通省は「工事監理ガイドライン」というものを定め、工事をチェックする項目を具体的に例示し、その項目は木造住宅の場合で200項目を超えます。
そのために私たちは、地盤の確認から基礎の配筋の確認、コンクリート打ちの立会い、また筋かいの本数や接合金物の確認、仕上げ方法や細かい納まりの確認と4~6ヶ月の工事期間のうちにさまざまなポイントで約20~30回、またはそれ以上現場に出向きます。そして、図面どおり施工されているか、手抜き工事がなされていないか、また、いろいろな基準どおりに工事が行われているか等を確認し、支障がある場合は工事会社に是正を勧告したり、指導を行い、場合によっては建築主に報告することになります。その目的の全ては、建築主の保護にあるのです。
ここで重要なのが、必要十分な図面がないと、何と照合してよいか判断できず、工事監理ができないということです。その意味においても、十分な設計図の作成が必要となるのです。
また、「管理」と「監理」は違います。管理は工事会社が行う現場管理で、いわゆる現場監督の仕事です。監理は、建物の規模に合った資格を有し、かつ設計業務同様、建築主との直接契約によって依頼された建築士が行う、先に述べた仕事をすることをいいます。
現場を管理する現場監督は、自社の利益を確保するために現場をスムーズに進行させることを最大の目的として、下請け会社等にいろいろな指示をします。そのためには手抜き工事を黙認したり、ともすれば手抜き工事を指示することさえあります。つまり、現場管理は建築主のために行われているものではありません。また、ハウスメーカーのように物件数が多く現場監督が何軒もの工事を担当している場合、各現場に目が行き届かず、工事はほとんど下請会社まかせになってしまいます。そうなると、ハウスメーカーの良し悪しよりも下請会社の良し悪しが問題となってしまいます。
工事監理と法的根拠
設計とともに工事監理は、建築基準法において「建築士法に規定する建築士である工事監理者を定めなければならない。」とされ、「その規定に違反した工事は、することができない。」と定めています。つまり、一定以上の能力と資格をもった建築士が工事監理業務を行わないと、建物を建てることはできないということです。
ここで気を付けなければならないこととして、この規定は建築主に課されているということです。きびしい言い方かもしれませんが、工事監理者を立てずに工事を行うことは法律違反であり、万が一建物に欠陥等の支障があった場合、その責任の一端は建築主にもあるということになりかねず、ですから、「知らなかった」ではすまされません。
設計の欄でも述べましたが、建築確認申請書には自らが工事監理をおこなうとして記名しながら、実際は現場に行きもしない建築士による名義貸し行為の禁止が明確に条文化され、一時は、欠陥と工事監理の因果関係を認め、建築確認申請書に建築主と設計事務所による設計、工事監理委託契約書を添付させる行政もありました。
ハウスメーカー等にすべてをまかせず、まず、行政や第三者的な立場で意見を言ってくれる建築士等に方法などを聞くことも重要と考えます。そして、ただ法で決められているということのみならず、建築主は自分で自分を守るための第一歩として、監理の重要性を認識していただきたいと思います。
工事監理と欠陥住宅との関係
平成14年には、施工会社の下請けで、確認申請書に設計及び工事監理を行うとして名前を記載し、実際には工事監理を行わず欠陥を発生させた代願設計事務所に、高額な賠償を課した画期的な判決がありました。欠陥住宅問題が大きく取り上げられてくるに従い、工事監理の重要性が認められてきたことが大きな要因であると考えます。
工事監理とは、工事が設計図どおりに行われているかをチェックし、不備があった場合はその是正を施工会社に指示するとともに、その経過を建築主にも報告します。
同じ利害関係にある施工会社の人間や、それに雇われた人間では、そのような的確な工事監理など行われるはずがありません。したがって、ハウスメーカーなどでは経費節減の意味も含め、工事監理はほとんど行われていないのが実情です。
また、少しでも手間をはぶき安く収めたいと思うことは、どの工事会社でもあるのが当然ですが、どんどん数をこなし利益を上げることを目的とすると、そこに欠陥や手抜き工事が発生する構造的原因があるのです。
ハウスメーカー以外でも実質的に工事監理を行わない場合、工事会社はだれにもチェックされていないことをいいことに、ずさんな工事や手抜き工事を行う可能性があります。そもそも、工事の人は法令等に不案内ですので、意図的ではないにしても法令に違反した工事を行う可能性もあります。
たとえば、窓の大きさや取付位置に関しても法律は規定しています。それを変更しても建築基準法に違反する可能性があります。そして、たまたま建築主がそれに気がついて工事会社に是正を要求しても「素人はだまっていろ!などと言われた」というような話をよく聞きます。そういう意味において、「工事会社」と、「工事会社とは何の利害関係もなくはっきりものを言える立場の設計事務所による監理」を分けることが重要なのです。
「NPO法人欠陥住宅をつくらない住宅設計者の会」の建築士は、建築主から依頼されて、建物の設計及び工事監理を行っている専業の建築士です。そして、それを誇りとしています。