欠陥住宅をつくらない住宅設計者の会

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柔らかい地盤に建築しようとした事例

一級建築士 纐纈 誠

所在地:愛知県内  予定建物:木造・2階て  用途:専用住宅

相談の内容は、「自らが居住するための木造住宅の工事請負契約を大手ハウスメーカーと締結した。ただし、当該敷地は切り盛りされた造成地内にあり、西側隣地は低く1.8m程度の擁壁もあって盛土であることが明らかであることから、また、近隣の同様な敷地での建築工事においても地盤改良が多用されていることから、地盤は相当程度に軟弱であるものと考えている。したがって、我が家の建築においても地盤改良等の地盤補強をハウスメーカーに依頼したものの、“絶対安全である”として、全く聞き入れてもらえないどころか恫喝めいた言われ方をされた。全く話し合いにも乗ってもらえず、不安なままでの建築を避けるために、契約を解除したいと考えている。」というものでした。

私が現場調査にうかがった際には、すでにスウェーデン式サウンディング試験による地盤調査が2回もおこなわれており、西側は地盤面から1.1m下まで自沈層(試験機のロッドを回転するまでもなく自重だけで沈下してしまう極めて柔らかい地層)であることがわかりました。

しかし、地盤調査報告書では、国交省告示の計算式(qa=30+0.6Nsw)をそのまま使い、自沈層であるにもかかわらず、30kN/㎡の地盤の固さ(許容応力度といいます)があるとされており、ハウスメーカーはその値をそのまま引用して、地盤改良などする必要がないとしていたのでした。たしかに国交省告示では、地盤の固さが30kN/㎡あれば、杭打ちや地盤改良は必要ないとされています。しかし、また、「基礎の下方にスウェーデン式サウンディング試験の荷重が1kN以下で自沈する層が存在する場合などにあっては、建築物の自重による沈下その他の地盤の変形等を考慮して建築物又は建築物の部分に有害な損傷、変形及び沈下が生じないことを確かめなければならない。」という規定もあります。この敷地には自沈層があるのにハウスメーカーはこの規定を全く無視して、安全であると言い切っていたのです。

また、この敷地の地盤調査は、いきなり1kNの荷重で試験をしているため、ハウスメーカーは1kN以下の荷重でも自沈する可能性について全く頭が回っていませんでした。つまり、同じ自沈でも荷重が1kNでの自沈と0.25kNでの自沈では地盤の固さが全く違ってしまいます。自沈層の場合、ロッドの半回転数(Nsw)が“0”になりますので、1kNを前提としている告示式を用いると、地盤の許容応力度は、qa=30+0.6Nsw=30+0.6×0=30+0=30kN/㎡になります。これを、試験機の荷重(Wsw)を考慮して計算しますと、qa=30Wsw+0.6Nsw=30×0.25+0.6×0=7.5+0=7.5kN/㎡となり、まったく違うものになってしまいます。

以上のように、ハウスメーカーの言いなりで建築していたら大変なことになるところでした。建物を建てる際には、地盤や法律に精通した建築士に設計を依頼する或いは相談するなど、十分に気を付けてください。