「倒れかけた擁壁」
平成26年12月8日
一級建築士 森 登
今年3月の無料電話相談で、「擁壁が傾いてきたのではないか、隣家側へ倒れたら・・・」との相談を受けました。「段差が出始めたので業者が手直しをしたが、それでも徐々に大きくなっていると感じる」「地震・強雨のたびに擁壁は大丈夫か心配、出来ることなら作り直す方向で考えたいが、どのような方法が可能か、現地調査して欲しい」とのこと。現地は、高低差3.5mの許認可が義務付けられている擁壁にもかかわらず、1段目・高さ1.5mの鉄筋コンクリート造で任意の擁壁+2段目・普通コンクリートブロック積5段+3段目・普通コンクリートブロック積5段という構成で、工事中の施工記録写真があったので調べてみると、危ない杜撰な工事内容でした。補修工事も力学的に根拠がない内容でした。予想通り行政への届出はナシで、宅地造成等規制法違反・安全確認不明。コンクリートブロックが傾き且つ上下にずれ、コンクリート擁壁部分が転倒し、隣家アプローチ土留めの一部を押し潰している状況でした。
進行性の疑いが強かったので緊急避難的に「コンクリートブロック部分を全部撤去し、土を削り取り、表面をブルーシートで覆い、雨水排水が可能なようにする工事を、業者負担で大至急実施するよう」指示しました。『大地震への備え』が言われる昨今、時代遅れ甚だしい確信犯的な業者の認識の甘さは一体何?・・・。
いずれ、工事の過程共今後の訴訟にて詳細が明らかになると思いますが、気掛かりなことがあります。行政へこの擁壁について相談に行った時の事です。
『市内には似たような状況の擁壁が多くあります。建物の耐震化は普及しつつありますので、地震が直接的な原因で、家自体は壊れないかもしれない、しかし擁壁を含んだ地盤崩落が原因で、家の被害が多数発生すると感じています・・・』
「今から家を建てよう・購入しよう」とお考えの皆さん、家と土地の安全確認は別物です。家がOKでも土地・擁壁はNGという場合があります。任意擁壁(高さ2m以下)については、行政へ安全確認の根拠提出が義務付けられていません。特に、義務擁壁であるにもかかわらず、巧妙に任意擁壁の取り扱いで済ませているような場合は、要注意です。
被害が発生してしまってからでは遅く、「知らなかった」では済まないのです。
加害者・被害者にならないために、まずはその土地・周辺をしっかり観察しましょう。
出来れば知り合いの建築士に同行してもらうことをお勧めします。