欠陥住宅をつくらない住宅設計者の会

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建築士のひと言

『古地図のススメ』

平成27年4月2日

櫻井裕己

この度、本会に入会しました櫻井裕己(サクライヒロキ)と申します。岐阜県は南の端っこの、三重県との県境付近で細々ながら建築設計事務所を営んでおります。よろしくお願いします。

さて、近年の造成技術の発達により、昔では考えられなかった土地が、住宅地や工業団地として開発され、販売されるようになってきました。樹木や雑草が生い茂る荒地は、きれいな道路が整備され、切土、盛土、法面保護、擁壁補強により、見違えるような宅地に変貌を遂げます。そして地名も、「○○台」や「△△ヶ丘」といったお洒落(?)な名称に替わります。

地名は、その土地の気候や風土を表している場合が多々あり,いわば土地の履歴とも言えます。私が住む「海津」という地名(「津」は港を意味します)も、岐阜県でありながら、昔は海に面していた事がうかがい知れます。名古屋周辺に津島や中島や枇杷島といった島がつく地名が多いのも、濃尾平野が昔は水域帯であったことの証左です。

ただ、確かに、もともと湿地や沼地、あるいは崖地であったことを示す地名は負のイメージが強く、きれいに整地すれば、地名も変更したくなるのも無理ありません。しかし、その土地が本来持つ性質も同時に見失っては、その地盤に見合った建物を設計することはできないのではないでしょうか。自然災害が昔から多い場所であったと知っていれば、心構えもかわってきます。地名の変更は、先達の教えをないがしろにするようで少し残念な気がします。

地名からではその土地の古くからの性質を判断することが難しくなってきた昨今、設計のみならず、土地や建売住宅を購入しようとする方には、私はまず、古地図にて過去の状況を確認することをおすすめしています。

以前、建売新築住宅の購入予定の方から購入判断のための調査のご依頼を受けたことがあります。建物は大手住宅メーカー製ですので大きな問題はなかったのですが、土地が丘陵地を造成した住宅団地であったため、念のため古地図を確認してみました。もとの地形と比較して、その団地の大部分は丘陵を削って平らにする切土造成地と判明したのですが、その方が購入しようとしていた家の付近のみ、斜面地に土砂を盛って平らにする盛土造成箇所であるのがわかりました。もちろん見た目上は見分けがつきません。安定した切土造成地に比べると、斜面の盛土造成は地滑りの可能性が高い旨お伝えすると、相談者様は、同じ団地内の切土造成区域の住居に、購入をご変更されました。

古地図は何年かおきのがセットになって販売されていますし、下記の大学研究室では現在と過去との地図を並べて表示してくれる大変便利なサイトを展開していますので、ご紹介します。

埼玉大学教育学部 社会科教育講座 人文地理学 谷謙二研究室
時系列地形図閲覧サイト「今昔マップ on the web」
http://ktgis.net/kjmapw/index.html