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建築士のひと言

原発は安心でも経済的でも無い。省エネ、再生エネルギーへ転換を!

令和6年5月1日

一級建築士 滝井 幹夫

 東北大震災から約13年、熊本地震から8年が経過しました。

 私は東北大震災・東京電力福島第一原発事故の悲惨な被害状況を受けて、その半年後くらいから、各種資料・映像などをパワーポイントに纏め「他人事ではない東日本大震災・原発事故」と題して、町内、学区、生協や女性・地域などの諸団体、住宅展示場などのセミナーに多数駆けつけました。

 そこで訴えた主要な内容は、
 東日本大震災は、1万9千余名の尊い人命と広範な地域の人々の営みを一瞬にして奪い去りました。そればかりか、人災と呼ばれる「原発事故」は1年以上を経た今も終息の見通しが立たず、放射性物質の拡散は人の健康や自然環境に未曾有の負荷を与え続けています。
 一方で私たちの住む東海地方は「東海・東南海・南海の連動地震がいつ発生しても不思議でない!」と言われ続けています。
 また、濃尾平野の大昔は湖や海だったこと、大規模な地殻変動と河川が運んだ扇状地、三角州などによってできた平野で、新しい干拓地や埋め立て地も多い事から、地震の揺れによる被害だけでなく、液状化や津波被害も危惧されています。
 更に愛知県は、日本一「原発」が集中し「原発銀座」と呼ばれる福井県と、震源域の上に造られた「浜岡原発」を結んだ中間に位置しています。
 ひと度、大地震が起きれば、まさに「東日本大震災は他人事で無い!」事態が起きかねません。等々でした。



 13年を経た今も「原発被害」からの復興は終息せず、数万人が故郷に戻れず、避難を余儀なくされ、生業などの被害も続いています。
 政府と東電は、福島第一原発の事故収束・廃炉を2051年までに完了させると言っていますが、溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しは、サンプル採取すら見通しが立っていません。
 そればかりか、デブリ由来の高度放射能汚染水も増え続き、多核種除去設備(ALPS)で処理した処理水を、「関係者の理解なしには処分しない」と漁業者に約束していましたが、それを破り捨て、海洋放出を繰り返しています。
 更に、全国の原発の運転で生じる高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)が増え続け、その最終処分場を北海道に設置しようとしています。
 政府は専用の金属容器に入れて地中深く埋設処分するとしていますが、数万年単位の管理が必要になります。
 ちなみに核物質のうち「トリチウム」がほゞ無害化するのは10万年と言われています。
 我が国は4つのプレートがぶつかり合う上にあり世界有数の地震国です。
 また、日本列島が大陸から分離し、現在の形になったのは約1万3千年に過ぎません。
 その数倍もの期間を地震などの災害に堪え、安全に保管する保証はどこにもありません。
 世界を見回しても、強固な岩盤で出来た大陸に於いても、フィンランドで一箇所建設中ですが、未だ最終処分場は一つも稼働していません。



 セミナーのお呼びが最初の1年は頻繁にありましたが、徐々にまばらになり、3年を過ぎたころからぱったりと無くなりました。
 これは、よく言うところの「風化」なのかと思っていました。
 当初は「原発廃炉」「脱原発」がマスコミや産業界、政府、の潮流となっていたのに、徐々に「原発再稼働」「原発運転延長」にシフトして来ました。
 原発事故の責任、再稼働の是非、被害の救済などの司法判断も市民感覚からすると、「?」の判決が増えています。
 この流れが決定的になったのは、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー不足・原油価格上昇を理由とする「原発回帰」で、政府は「原発新設」迄言い出しています。



 そこに起こったのは、元旦に発生した「能登半島地震」でした。
 土砂崩れや路面の崩落、海岸線の隆起、液状化、津波、火災などにより2百数十名の尊い人命と多数の建物被害が発生しました。
 震度7を観測した志賀町の東北電力志賀原発では、当初「被害は無い」と言っていましたが、実は、変圧器が損傷し、いまだに一部の外部電源が失われたまゝです。
 幸い、原発自体に大きな損傷はありませんでしたが、原発事故の際に避難路となる主要道路が寸断され、一時避難に供する「放射線防護施設」のうち、損傷や異常が多数起きているなど、地震と原発事故が重なれば、現在の「避難計画」など「絵に描いた餅」であることが明らかになりました。
 能登半島北部の珠洲市にあった原発立地計画は、長年の住民運動で阻止され、「原発が無くて本当に良かった」という思いが大きく広がっているそうです。
 今、九州の半導体工場建設への多額の公的補助金が出されようとしていますが、「原発」に対しても研究や施設建設、無害化するまでの対処などに対する各種補助金が投入され、事故が起こった時の公的資金の投入など「原発」は一見安く見えても実はそうではありません。
 我が国は狭い国土であっても3千メートル級の山から海岸までの変化に富み、無数の河川に恵まれています。また、周囲は広大な海に囲まれています。
 この自然環境を生かした各種再生エネルギーを開拓し、省エネの併用をすることこそ、地球温暖化を抑える道にもなると思います。
 最後に「脱原発」を達成したドイツが、今年、国民総生産(GDP)で我が国を抜き、世界第3位になったことは示唆に富んでいるのではと思います。